CITROËN C5 X






CITROËN C5 X
シトロエンにおけるフラッグシップモデル?もしくは一番大きなモデル、そんなC5 Xを300kmほど走らせることができた。

2021年にPSAとFCAがマージしてステランティス・グループになってからシトロエンのクルマに初めて乗った。
サイズ的には所謂 “Dセグメント” といったクルマ。
アピアランスはステーションワゴン・・というのには車高が高いような、SUVと呼ぶのもちょっと違うな。
2022年にリリースされたクラウン・クロスオーバーと同じようなスタイル。
フロア下にバッテリーを敷き詰めるのに都合のいいデザインのように見えるけど、このモデルにはBEVはない。しかしプラグ・イン・ハイブリッドがラインアップされているから、このモデルの企画が立ち上がったときに既にそれ前提でデザインされていたんだろうな。。。

ステランティス・グループのプラットフォーム “EMP2V3” を使うC5 X。
同じステランティス・グループの他のフランス車ブランドであるプジョーには408、DSオートモビルズにはDS4という “EMP2V3” 同じプラットフォームを使ったモデルがある。
そのどちらもが、C5 Xとほぼ同じといっていいプローポーションをしている。
まぁ、今の時代、いろいろな制約があってしようがないんだろうな。

パワートレインはPureTechと自ら呼称する、180PS/250Nmのパワー&トルクを発生する1.6Lの4気筒ガソリン・ターボ・エンジン。1500kg強のボディを走らせるこのフランス車だけど、同じセグメントのドイツ車と較べると、いささか非力に感じる。
確かに速くはないけど、東京都心の流れに乗るのにとりたてて問題ないし、それほどストレスもない。。。
このエンジンにはこれといってドラマもなく、まぁ、フツーっていっていいかな。

数年前、ヨーロッパでシトロエンのクルマを走らせたことがあった。
パリの中心部でピックアップしたそのシトロエンは、なんというかフツーのコンパクト・セダンだった。
日本でいえば、一昔前にあったトヨタのカローラ・セダン、そんなスタンダードな感じ。
いざ、パリの街へアクセラレーターを踏み込みステアリングを切り込むと、大丈夫かこのクルマ?
そんなことを最初に感じた。
ボディに剛性を感じられなくて、ステアリングがダルで、とにかく全体がユルい、なんというか不安で仕方なかった。

ちなみに、クルマをレンタルするとき、僕は可能なかぎり日本やアメリカで乗ることのできないクルマをリクエストすることにしている。

ケオティックなパリ市内を抜け、ル・マン方面へ向かうべくA6へ、そしてA10へと繋ぐ。
高速道路に上がってしばらくは、おっかなびっくりナニもかもがユルいシトロエンを走らせた。
少しずつ速度を上げていくにつれて、シトロエンはヘンな挙動を示すようになっていった。
フランスの高速道路のリミットは時速130km。
パリ市内を流していたときのボディの緩さは遠くに感じるものの、ステアリンとサスペンションの挙動が落ち着いてきて、なんというかスタビリティが上がってピターッと直進安定性が高まってきた。
これうまく説明できないのがなんともだけど、ドイツ車の高速域のオン・ザ・レール感覚のスタビリティとは明らかに違ってる。
うん、でもこれはコレでアリ、気持ちイイ。

シトロエンの代名詞といえば “ハイドロ・ニュー・マチック” でいいだろうか?
諸先輩方がそのシステムを好意的に評価しているのは知ってる。
しかし残念ながら、ソレを装備したクルマに僕は乗ったことがない。
なので、かつてシトロエンが創った、 “魔法の絨毯” と評されたライド感覚とは、それなり、もしくはずいぶん違うのかもしれないけど、僕には判断できない。。。

・・・そんな数年前の記憶と感触を期待して、C5 Xを走らせた。

確かにソフト、柔らかい挙動と乗り心地。
しかし、イメイヂしていたシトロエンぢゃない。

なんというか、ただ柔らかいだけ。
高速に上がってアクセルを深く踏み込んでいくも車速相応にスタビリティが整っていく感覚はあまりない。不安定なフィーリングというわけではないけど、低速走行時のユルい感じのまま、車速が上がっていくだけ、これといったドラマは、ない。
それなら、低速時はどうだろう、交差点、前走車の減速にシンクロさせるようにブレーキ・ペダルを柔らかく踏んでいく、フロントノーズを沈み込ませながら車速が落ちていく。
やがてC5Xは停まる、いくつかのピッチングを残したまま・・・
うーん。。。


100年に一度の激動の時代といわれる自動車業界。
そのウェーヴのなか、新興企業、吸収合併、提携などなど・・・
その結果として、グループ内で共有されるプラットフォームやパワーソース、補機類や電装系、ADAS等の各マテリアルが最大公約数的に共通化されることによって、かつてそれぞれのブランドが持っていたキャラクターが薄まってしまうのは必然なのだろうな。

Audi A7 Sportback 40TDI quattro






Audi A7 Sportback 40TDI quattro
アウディにおけるEセグメントのスペシャリティ、4ドア(5ドア)クーペ。
同じアウディのDセグメントであるA5シリーズは、2ドア、4ドア(5ドア)、カブリオレ(オープントップ)とバリエイションがあるのに、A7は4ドア(5ドア)クーペのみ。とはいっても専用設計というわけではなく、ベースになるのは同じEセグメントのA6シリーズと、エクステリア以外のほとんど全てを共有してる。
このあたりが、他のジャーマン・ブランドのラインナップと較べると、アウディの弱いところかな。
まぁ、Eセグメント以上のクラスになるとカンパニーカーとしての定番のセダンと今どきのSUV以外は、どこもそれなりに苦労しているようにみえるし、そのなかではメルセデス・ベンツがリードしているのだろうけど、BMWはもとよりAudiはなかなか苦労してるんじゃないだろうか。

何はともあれ、A7 Sportback 40TDI quattroを3日間ほど、350km程度の距離を走らせる機会を得た。
どうやら、日本に導入されている最も廉価なモデルらしい。
シャシーはおなじみ “MLB Evo” 、ギアボックスこれもおなじみ7速 “S-tronic(Dual Clutch Transmission – DCT)” 、エンジンは以前走らせたAudi A5 Sportback 35 TDI advancedと同じ2リットル・ターボ・ディーゼル。
ただしスペックは車体の大きさというか重さに配慮してか、それなりにパワーアップしてる。
とはいっても、204PS / 40.8kgmのパワー&トルクなので、1850kgの車重をドライヴするには非力といってもいいかも。

走らせてみると、そのスペックどおりといえばいいのか、全体的にマッタリなフィール。
僕にとってのアウディのリファレンスはB8世代のA5 sportback 2.0 TFSI quattro。
それは単純に最初に所有したアウディであり、6年あまり歳月を共にした相棒だったから。
これが、340PS / 51.0kgmを発生させる3リッターV6エンジンを積んだ55 TFSI quattroだったら、また違った印象になったかもしれない・・・

Eセグメントというクラスなりに求められるフィールってある。
それはアウディに限らず、メルセデス・ベンツやBMWでも同じことだと思う。
つまり、Eセグメント以上のモデルは所謂高級車のカテゴリィとして扱われているような気がする。
高級車って何?って聞かれると、ちょっと口ごもってしまうけど、まぁ、平たく言えば、自分(ドライヴァー)以外を乗せて、というか、リアシートの居住性にも快適性にウエイトを置いているかどうか、そういうことかな。

つまりショーファー・ドリヴンとしてのクルマの存在ということではないかと。
もし、そうであるとしたら、このA7 Sportbackをはじめ、メルセデス・ベンツ CSLやBMW 8シリーズといった4ドア(5ドア)のクーペスタイルのボディを纏ったクルマの存在理由ってナニ?
メルセデス・ベンツ Eクラス、Sクラス・クーペ、BMW8シリーズ・クーペやレクサス LC、もっといえば、ベントレイ・コンチネンタルGTといった、Eセグメント以上の大型2ドア・クーペは、実用域の向こうにある、なんというかムダ・・・というか、ラグジャリィーだよね、というのがそのアピアランスを持って、あぁ、これってフツーに家族で乗るクルマじゃないよね、って万人に理解できるんじゃないかと思う。

しかし、このA7 Sportbackという、中途半端なサイズのクーペ・ルックのしかも4ドア(5ドア)とかって、どこか実用性を求めているにもかかわらず、ラグジャリィでしょ?的なクルマの立ち位置って、どうなんだろ?
アメリカ的な “プロムナード・カー” でもなく、伝統的なクーペでもない。
スタイリッシュ、もしくはスリークなクルマが好きだけど、家族や荷物を乗せなきゃならないし、でもいろいろな制約があって、1台のクルマで賄わなければならない、なんというか中途半端なクラスタに向けたクルマという解釈でいいのかな?

個人的には、2ドアでなく動力性能が同じか劣るなら、Eセグメントである必然性はなく、Dセグメント、つまりA5 Sportbackでイイかなと。
Eセグメント以上は、高級車のカテゴリィに属するとすれば、4ドア・セダンやワゴンといったショーファードリヴンとしての実用性、もしくは2ドア・クーペないしカブリオレといったラグジャリィな方向性がこのクラス以上のクルマのレゾンデトールじゃないかな。
かなり偏った考え方かもしれないけどね。

それでも、ファストバック・スタイルのルーフラインはエレガントで麗しい。

Hyundai IONIQ 5 N





HYUNDAI IONIQ 5 N
そしてコマーシャルモデル?の IONIQ 5 N を使ってのサーキット走行体験。
一度に走るのは、5台、そのうちフロントローの一台はインストラクターが操るペースカー。
つまり好き勝手に走ってイイ、ということではないということ。

“ソウルトロニックオレンジパール” と呼称されるスカーレット色の一台が僕にはアサインされた。
サイドシートには先ほどとは違うインストラクター氏が乗り込み、このクルマの特徴や各スイッチの使い方をサラッとレクチャーしてくれる。
BMWのiDrive 8シリーズと同じようなタブレットを2枚並べたようなワイドなスクリーンがフロントに設置されているが、はっきりいって機能が多すぎて何がなんだか・・・
でも、すべての操作がタッチディスプレイ操作しないとならないわけではなく、エアコン等の基本操作部分は独立していて日常的な操作性はそれなりに考慮されているようにみえる。
BMWのiDrive 8ときたら・・・

Hyundai IONIQ 5 NのベースになっているICONIC 5のデザインは少しファミリィカー的なファンシーさを感じさせるけど、IONIQ 5 Nはそこから大きく変化させ、いかにもパフォーマンス・カーだということをそのアピアランス、うまくスポーツ性をアピールすることに成功しているように感じる。
とてもデザイン性が高い、と個人的には思うかな。
Nマークがセンターにフィチャーれたステアリングホイール、Nモデル専用のシートやステッチ、ボタン類がオリジナルのICONIC 5とは結構違っているんだそうだ。
そういえば、ボディカラーだけではなく、エクステリアでも、Nマークの立体的な装飾やホイールのセンター・キャップ、ディフューザーにウイングレットなどなど、エクステリアがパフォーマンスカーとしてキチンとデザインされていて、その細かなコダワリはAMG、BMW M やAudi Sports、はたまたLEXUS Fあたりのパフォーマンス・モデルよりよほどコダワっている感じ。
いささかトゥー・マッチなような気もするけど、スペシャルなモデルとしての主張は充分発揮されてる。


で、ステアリングを握って、ピットロードからレーストラックへアクセルを踏み込む。
なんの変哲もなく、といえばアレだけど、特別にナーヴァスなアクションもなく、フツーに、というか、その強大なトルク&パワーなりに一気に加速していく。
EVなので、本来はエンジンやエクゾーストなどのノイズはないはずなんだけど、車内には盛大なエクゾースト・ノートが響きわたる。
これは車内に設えられたレゾネータから発せられるらしい、そしてそのノイズはハイチューンの4気筒エンジンを模して作られたサウンドチューンだとブリーフィングの時にいってたっけ・・・


IONIQ 5 N をレーストラックで走らせてみ、これといったドラマもカタストロフィもなかった。
こう書くと、ものすごくツマらなかったように聞こえるかもしれないので補足しておけば、極めてフツーに走らせることができた。
650馬力 / 740Nmnという出力を備えたクルマであるにも関わらず。
それって、スゴいことなんじゃないかと思うんだけど、どうだろうか?
レシプロ・エンジンのクルマで、これくらいのトルク&パワーがあるクルマをフツーに走らせることができるのだろうか?
そのパフォーマンスを持つレシプロ・エンジンを積んだクルマをドライヴしたことがあまりないので、どっちがどうと、ジャッジできるほど経験がナイのがなんとも。。。

まぁ、なんにせよ、フツーにDセグメントあたりのSUVを走らせるようにレーストラックを走らせることができた、そういうこと。
BMWでいえば、M一桁モデル(M3とかM4)のようなスパルタンさはなく(とはいっても、現行G世代のMはどれもそれなりに日常使いできそうなほどフレンドリィになってはいるけど。)、Mパフォーマンスモデル(M340iとかM440i)くらいのフレンドリーさで、650馬力を愉しめる感じといえば、なんとなく伝わる?
この表現、同乗して下さったインストラクター氏も、うんうんと笑いながら同意してくれたんだが。

これには、IONIQ 5 N が履いていたピレリーのP ZEROの特性によるところも大きいのだろう。
ドリフト体験の時にも感じていたのだけど、レーシング・アスファルト上においてタイヤの剛性と限界グリップが高い感じではなく、どちらかといえば柔らかく、なだらかにグリップの限界を越えていく感覚で、滑り出しがダルでコントロールしやすく、それが安心感に繋がっているような気がする。
この僕のコメントに対し、インストラクター氏も、限界グリップそのものよりも、限界を超えたときのコントロール性にフォーカスしてこのクルマとタイヤをセッティングしてある、と説明してくれた。
なるほど・・・

EVならではのリニアな加速と強力な減速、細かな電子制御による車体コントロール、動的バランスにおいて、レシプロ・エンジンのクルマではもはや到達できない領域なんじゃないだろうか。

・・・まぁ、それが好きかどうかは別にして・・・

キレイに晴れた5月の空の下、クローズドコースで気兼ねなくクルマを走らせる。
こんな楽しいことはなかなかない。

いいイベント、いいクルマでした。