Kamuy Mintar -the playground of the gods.-





ずいぶん歩いてきた。
少し疲れたな。
360度、全てを見渡せる開けた場所で、バックパックを肩から外す。
ナルゲンから水を、喉を潤して、アミノバイタルを摂る。

ここならイイ、かな。
ソニーのインイヤーヘッドセットを耳に。
iPhoneをタップしてミュージック。

From the New World -新世界より-
iPhoneのランダム再生がなせる偶然、この場所で、この風景で、いきなりこんな曲がくるか。
ちょっと震えた。
ドヴォルザークがアメリカに観た風景は、どんなだっただろう。
「この作品は以前のものとは大きく異なり、わずかにアメリカ風でもある。」そう、友人に宛てた手紙に書いたらしい。


-カムイミンタラ-
アイヌの言葉で、「神々の遊ぶ庭」という意味なんだそうだ。

こんなところが、こんな風景があるんだ・・・
すごいな北海道。

Mt. Asashidake -accomplished-






山荘に帰りつき、装備を解いて、温泉に浸かりながら山の状況を振り返る。
アレで良かったんだ、撤退の判断は間違ってなかったんだ・・・
納得させる。

お風呂から上がり、洗濯をするためにフロントに声をかける。
今日のコンディションはかなり厳しかったでしょ?と。
明日はどうかな?
お天気は回復方向の予報になってるし、ここ数日では期待できるかも。

明日スペースに余裕がある?
しばし、台帳をめくった後、一つベット空きががでてますね、いまのスペースそのままでいけますよ、と。

一瞬迷った、もう一泊お願いします。
クチが勝手に喋っていた。

「今夜は、今夜しかないのさ。」
その昔、白井貴子がパーソナリティをやっていたオールナイトニッポンでキャチフレーズとして使ってた。
次に旭岳を訪れることができるのがいつになるのか?
来年の夏も北海道にはやってくるだろう、たぶん。
しかし、その時にコンディションがイイとは限らない、いろいろな意味で。
なら、明日の可能性にベッドしてみるのもイイんじゃないか・・・

「今夜は、今夜しかないのさ。」
旅のスケジュールを変更して、もう一泊この山荘にお世話になることにした。

キレイに晴れた翌日。
姿見駅で昨日と同じように装備を整えてスタート。
風は強く、気温は低め。
レインギアこそ着けていないけれど、装備は昨日と同じ、晩秋の装い。
旭岳石室を越えて、登山道へ。
6合目、7合目、そして昨日撤退した8合目を過ぎる。
とにかく風が強い。ときどき身体を屈ませてやりすごさないとそのままm飛ばされてしまうんじゃないか、そんな恐怖を感じる。
風速だけなら昨日より強いかも。
しかし、視界が開けていて周囲が見渡せる。
それだけで、気分がぜんぜん違ってる、前に進もうという気になる。

風の影になる大きめな岩をみつけては一休みしようと思うんだけど、そんなスポットはすでに誰かがいて、まったくアシを停めることができない。
ようやく一息つけたのは、9合目のサインがある大きな岩のあたり。
バックパックを下ろし、水分を補給する、ふぅ人心地つけた。

たどり着いたピークは、ここまでの急登がなかったようにフラットで、風が強くて雲が早く流れ、晴れてはいたけれどまぁまぁ寒い。
静かに三角点にタッチ、ありがとう。

少しだけ風をかわすことができるとことに下がり、バックパックを降ろし、山荘で持たせてもらったおにぎりを頬ばる。
うんまい、サイコー!

Mt. Asashidake -a violent rainstorm.-








北海道に入った2日目、雨に降られながら大雪山、旭岳の麓の山荘に投宿した。

次の日早朝、雨降る中、レインギアをフル装備して旭岳ロープウエイの山嶺駅に向かった。
幸いロープウエイは稼働していて(前日は悪天候のため運休)、姿見駅まで労せず到達。
駅舎をでると、雨と霧、そして気温摂氏6.7度、だって・・・
冬山で使うアクティヴ・インサレーションを着てきて正解だった。
上はドライ・レイヤーに、メリノウールのベース・レイヤー、薄手のグリッド・フリースのミッド・レイヤー、その上にアクティヴ・インサレーション、そしてレインウエア。
下はドライレイヤーにトレッキングパンツ、そしてレインウエア。
まぁフル装備。
これで足りなければ、バックパックの中にダウンのインサレーションがある。
ただ、これを使わなければいけない状況って・・・

装備をすべて確認し、バックパックのストラップをアジャストし、レイン・グローブを着けて、いざゆかん。

散策路を足元を確かめながら、雨と霧の中、ゆっくりと歩を進める。
季節はチングルマ。ところどことに群生した白い小さな花が咲き乱れてる。
やがて姿見の池に至り、池のほとりには雪がまだ残ってる。
ここまで来ると、雨と霧に加え、強烈な風が吹いている。
第五展望台か少し下り旭岳石室へ。
ココは避難小屋になっていて、中には結構人がいた。
山荘で持たせてもらった、おにぎりのお弁当をほおばりつつ、しばらく天候の好転を待ってみる。
避難小屋には登山者がやってくる。
これから登ろうとしているヒトや、いち早く登りはじめたが途中で撤退したきたヒト。

・・・しばらく時間をやりすごし、バックパックを背負い直し、ストラップを締める。
これ以上待っても天候の好転はあまり期待できそうにないかな、そう判断した。
さて、どうしよう、ほんのわずか逡巡したけど、いけるとこまでいってみよう。
避難小屋の扉を開けると、あいかわらずの雨と霧、そして強風。
うーん、やめるか、と思わなくもない。
しかし、時間はまだ早い、体力も充分、イケる。
よし、登ろう。

ここからは散策路を離れ登山道、土と石と岩、足元を確認しながら慎重に登っていく。
上からヒトが降りてくる、すれ違うときに状況を確認すると、撤退してきたらしい。
六合目を過ぎ七合目へ、ますます霧と雨と風、状況はどんどん悪くなる。
七合目を過ぎてしばらくいくと、突風で体が浮き上がりそうになった。
なんとか八合目にたどり着く、しかし、霧も雨も風もどんどん強くなり、耐風姿勢をとっても暴風に身体がどこかにもっていかれそう。
まわりには誰もいない、視界にはただ奥行きのない真っ白な世界が映るだけ。

ここまで、カナ?

まだ体力は充分ある、お腹も空いていない。
水もある、行動食もある。
イケなくはない。

ここから先どこまでいけば満たされる・・・

撤退を決めた。
達成できなかったときの感覚を抱えながら、来た道を下っていく、状況はあいかわらずだ。
登ってくるヒトが数人、声をかけられ、自分は八合目までいったけど、コンディション好転が見込めないので撤退することを伝えると、彼等も撤退することに決めた。
もちろん、このテの判断は、それぞれ個人のものだ、良い悪いではない。

姿見の駅まで戻ってきて、ゆっくりと長く息をはいた。